2024年08月

フレット交換 / Cole Clark


スタッフの山口です。

今回はフレット交換です。

写真はネックジグと言って、アジャストロッドではうまいこと効かないような波打ちや大幅な修正が必要な場合、またノンアジャストロッドの場合はコイツに頼ることがあります。


調弦し実際にギターを弾く際のネック状態を弦を張っていなくても再現できる優れもの。今までもブログに何回か登場していますね。

意外と横になるだけでもネックコンディションはわずかに変わっていることが分かります。

 

 


ナットが底上げしてありましたので丁寧に取り除きます。


ここから3枚の写真は指板修正。


削れるところと削れないところを見れば波打っていたのが一目瞭然です。


修正完了。指板の色がだいぶ薄くなりました。


フレットを打ったら自分的に超重要な工程、フレットサイドの削り落としです。指板サイドを傷つけないよう、指板の端がまっすぐになるように感覚を研ぎ澄ませます。


大事な工程は必死なことが多いので写真を撮り忘れます。

一応企業秘密ってことにしておきます。


しっかりフレットを仕上げていきます。


ゴシゴシ。


アコギはある程度のピカピカさ加減がかっこいいです。


オーナーの指定がありましたのでタスクでナットを新調します。


ナット作りとフレット交換はその職人の腕前が分かるのでその道のプロが見ても高評価が貰えるように頑張ります。


コールクラークのヘッドは出っ張りがあるので慎重に溝切りします。


いい感じになってまいりました。


奥が今回製作した方です。


弦間もヨシ!


ナット調整後にサドル調整し弦高を標準にセットアップします。


フレットの種類はいくつかありますので好みのものを選んでいただけます。


リフレットは完了するととても清々しいです。


一丁あがりです。

 

コールクラークはオーストラリアのギターメーカー、メイトンから独立したクラークさんが2001年に創業したそうです。ネックの仕込み方が所謂スパニッシュ式(クラシックギター式)なのも面白いですね。今回のネックは波打ちがありましたが、このメーカーがネックが弱いとかそういうことではありません。たった一本のギターを見ただけで「あそこのギターはネックが弱い」と、そのメーカーのギター全てを見てきたかのように批判したり語る人がいますが、そういう人はどこか海外旅行に行って入ったレストランが美味しくなかったら「あそこの国の料理はまずい」と言っているようなものだと思います。木工製品である以上当たり外れというか、それぞれ個性があって、だからこそギターは面白いと思うのです。新しいギターは木が若く多少ネックなど動きやすいのはしょうがないと思いますが、弦の張力による変形は弦を緩めるだけで防止できますので、ビンテージにしても新品にしても弦は弾いていない時は緩めましょう。

今回も最後までありがとうございました。

ネック折れ修理 (塗装修正あり)/ Gibson Les Paul

ヘッドが取れてしまう程の激しい折れ方。

意外と簡単に折れてしまいます。

倒れた時には、意外に簡単に折れてしまうネック。

ハードケースに入っていても倒した時は、心して開けないと衝撃に襲われることがある。

 

修理の方法は、次に倒れた時に簡単に折れてしまわない様に周囲まで頑丈に補強するか、折れた箇所を問題無いように接着するか、修理屋によって考えや、方法が違いますが、当方は後者。

 

 

 

 


画像にすると思いの外、すごくよく見えたり。


画像にすると思いの外、良く映らなかったり。


「肉眼で見れば、もっとうまいのになー。」とか。


「画像で見ると、随分良く見えちゃうなー。」とか。

 

撮影の技術があれば良いのですが、合わせて15年前から使っているコンパクトカメラ(Lumix…レンズがにゅーって出てくるやつ)で撮っております。

 

 

 


 

先程の続きですが、当方のネック折れ修理は後者の考え。

理由は、補強しなくても良い接着剤で修理するからです。

補強しなければ面倒が減ります、修理費が抑えられます。

補強して再度折れてしまった場合は、折れ方が面倒になる可能性があります。

補強しなければ、わざわざ元の材料を削り落として新しい木材を足さなくて良いので、ほぼ元の質量のまま変わらない。

ネック折れの修理前後で、すごく質量の差が大きくならない限り音が変わってしまう事はほあまり無いと思いますが、気にされる方には、補強無しは良い方法。

我々修理屋は、接着には「タイトボンド」が定番です。

ニカワのように剥がすことが出来、ニカワよりも優秀な接着剤。

但し、ネック折れ修理には少し力不足、その為補強が必要になります。

 

どちらかのサイトの修理料金表では、接着のみの場合は強度が保証出来ないと注釈が付いていた気がします。

タイトボンドでも大丈夫な場合もあれば、将来接着箇所にヒビが入ってしまう事もあると言う事ですが、大丈夫のケースとダメのケース、その差は接着面積の差なのか、修理者の差なのか、オーナーの扱い方の差なのか、分かりません。

ネック折れ修理でタイトボンドを使う場合は、補強がある方が安心と言う事です。

 

 

 

ネックリセット Gibson / Southern Jumbo(1952)


スタッフの山口です。

ネックリセットばかりで申し訳ないのですが、今回も例外なくネックリセットです。次回もネックリセットかもしれません。色んなギターのバリエーションで楽しんでもらえれば幸いです。


弦高チェック。

6弦12フレットで3.3mmといったところでしょうか。


1弦12フレットで2.5mmほど。普通の人なら十中八九弾きづらい弦高です。

一般的に「弾きやすく音も良い」と言われる弦高は2.4mm-1.7mmの±0.2mm程度だと思います。

それ以上だと弾きづらく、それ以下だと弦高が低すぎて音がペタペタする傾向があります。


サドルもこんな感じなのでネックリセットを決断して正解だと思います。

50年代初頭は40年代と似たブリッジですね、この感じ。


Gibsonはセットネック後の塗装なので余計なチップをしないように切り込みを入れておきます。Martinは塗装後の組み込みなのでこの作業は不要です。メーカーによって違うのもまた面白いですね。


いつものようにダブテイルジョイントを温めてネックを外します。


約2時間ほどで外れました。Gibsonはシリアルナンバーにしても仕様にしてもいい加減な印象を持たれがちですが、決してそんなことはありません。


ネックを外して恒例の記念撮影。

指板やボディも無事で何より。ネックリセットはネックを外す工程が一番リスクが高いのです。


ネック角度を適正に直し終え、いざ接着です。

そういえば1952年当時もロッドエンドはまだここなんですね。

 


接着後はしばらく寝かせておきましょう。

ボルトやビスで組み込まれるエレキギターと比べると、アコースティックギターはほとんどが接着剤で組まれていて接着の待ち時間が多いので修理に時間がどうしてもかかってしまいます。


数日後、ダブテイルスポットに繋がるドリル穴を埋めてフレットの擦り合わせ。

ネックリセット後はフレット交換か擦り合わせを行います。


ナットの溝が深かったので今回は底上げで対応。写真をよく見ると分かります。

次回フレット交換の際は交換になると思います。コストをかければもちろん交換も可能です。


サドルのでしろが復活。

んー、ちょっと高めに見えますが、、


6弦12フレットで2.5mm、


1弦12フレットで1.8mmと若干高めなので、調整幅や近々フレット交換をすることを考えれば許容範囲です。


ヒールも綺麗に仕上がったのではないかと思います。


反対側も。ちなみに塗装修正は無し。

塗装修正が必要な場合はあと1週間以上はかかります。


ヴィンテージギターを主に扱うショップ在庫が僕の主な担当なので、GibsonやMartinのヴィンテージギターをたくさん修理させていただきとても光栄です。が、そんな高価なギターを派手に壊してしまって絶望する、という悪夢にうなされることがよくあります。

ハッと目覚めて「夢で良かったー」と脂汗を拭きながら安心しますが、それが自分への良い戒めにもなっていますので、職業病と思って付き合っていくしかないと思う今日この頃です。

今回も最後までありがとうございました。

 

ピックガード交換 / Gibson Dove


Doveのピックガード


崩壊


きれいに直して交換します。

セルのベッコウ柄ピッグガードやバインディング、全体的に茶色っぽくてその中に白っぽい柄が入っているのですが、その白っぽい部分から崩壊が始まります。

湿気を吸ってしまうようです。

私のベッコウ柄のセル材料もしばらく使っていなかったら、しっとり湿気って壊れていました。

置いておく場所は高いところに置かなければいけませんでした。

セルの材料は現在はほとんど入手不可能なのでもったいなかったです。

 

 


 

先程の画像でも確認出来ました、割れも直さなければいけません。

当然力木も剥がれていますので、良く調べてしっかり接着します。

トップの力木剥がれは、剥がれている位置によっては物理的であったり、小さいボディのギターではサウンドホールから手を入れて作業するには不可能な位置が剥がれている事があります。

トップ側の力木を確認するには鏡を使わなくてはならず、配置も複雑です。

届かない部分等は鏡を見ながら長いものを使って作業しますが、昔の慣れない頃は私の不器用さも相まって笑っちゃうくらい難しかった記憶があります。

 

トップ側の力木修理は、バック側より数段面倒な場合がございます。


 

こちらは、(有)バードランド製のピッグガード

切り出します。

なかなか難しいです。

画が思った位置に収まらないのです。

 

 

 

 


 


とても雰囲気は、よろしいです。

 

Gibson のP/Gの多くはMartinと違い指板に沿わせてサウンドホールの位置を合わせなければなりません。

どちらかがずれれば位置がおかしくなります。

Gibsonの場合、Martin と比べますと、いろいろと面倒が多いです。

 

ネックリセット / Gibson J-45


スタッフの山口です。

今回は訳ありのネックリセットです。1950年代のGibson J-45、昔のGibsonは色んな「訳あり」があるのです。

トップが凹み、ネックが元起きしているのが上の写真でも分かると思います。写真で分かるというのは相当角度が狂っていると言えます。


今回の訳ありポイント。

この時点で「あ、こりゃあ、、やってんな、、。」

という嫌な予感がしています。


ひとまずいつも通りの手順でネック外しに取りかかりましょう。


指板を温めて、、


トップから切り離します。


Gibsonは1時間以上の長期戦になることが多いです。


意外とあっさりとネックが外れましたが違和感満載です。トップ板が指板とダブテイルの間に食い込んでいます。これではジグで力をかけてもネックは外れないはずです。


こんな感じですが、途中で気づいて指板を剥がすか迷いました。ですが前回のリセット時に割れていたのか指板に沿ってトップが浮いてネックが素直に外れたのでそのまま続行するのが最善と判断しました。


ひとまず再度接着してあげましょう。

 


その間に本来のダブテイルジョイントにするためにネック側を修正します。指板に3mmほど足してありましたがグズグズでしたので一旦取り除きましょう。


トップが食い込んでいたところをマホガニーで埋めます。


これでOK。


取り除いた分3mm厚足します。

あとはボディ側のトップ板を溝に合わせて切れば本来のダブテイルジョイントに修正できます。


説明が下手なので分かりづらいですが、、写真を見てもらえればなんとなく分かりますかね汗

あとは黒く塗装します。

 


ネックリセットでは何度も組んでは外して微調整を繰り返します。


角度をつけた分、指板のハイフレットが下がることが判明したので下駄を履かせます。


ボディ側、ダブテイルジョイント部分のトップ板も切って取り除いてあります。


調整を繰り返して少しずついい感じに。


センターズレも問題なし。


この写真のように指板が極厚になっているGibsonは今回と同じ訳ありの仕込みの可能性大です。


今回フレットはすり合わせでOK。


最後にサドル溝修正。今回のネックリセットによってサドルの高さが復活しますのでそれにしては溝が浅すぎるためです。


いい感じになりました♪


以前、師匠の皆川も僕もJ-200でこのトップ板を挟み込んだジョイントに遭遇しています。ヒールとボディの帳尻が合っていますので生産時にGibsonが一時期だけ行っていたようです。

理由は分かりませんが、おそらくなんらかの理由で工程の変更を試み、ネックとボディを組んでからトップ板を貼り、最後に指板を貼り合わせたのだと思います。当時の職人さんたちの中の誰かが「あれ?これじゃあ修理の時にネック外せないしヤバくね?」みたいな一言があって即時元通りに戻したのではないかと想像できます。

こういうミステリーがGibsonには歴史に散りばめられていて、それがまたこのメーカーの面白いところでもあり魅力だったりします。

今回も最後までありがとうございました。